2025年9月17日水曜日

神奈川フィルハーモニー管弦楽団、第407回みなとみらいシリーズ定期演奏会


[日時]
2025年9月13日(土曜日)14:00開演

[場所]
横浜みなとみらいホール

[出演]
エステバン・バタラン(トランペット)(アルチュニアン)
村上公太(テノール)、神奈川ハーモニック・クワイア(男声合唱)(リスト)
クレメンス・シュルト指揮神奈川フィルハーモニー管弦楽団

[曲目]
アルチュニアン/トランペット協奏曲変イ長調
リスト/ファウスト交響曲 S.108

[プレイベント]
榊原徹音楽主幹と神奈川ハーモニック・クワイアのクワイアマスター岸本大氏によるトーク
・リスト/ワイマール賛歌S.313(神奈川ハーモニック・クワイア メンバーによる)

以下、メモ・感想を。

13:35からのプレイベントでは、音楽主幹の榊原さんから、満を持しての《ファウスト交響曲》であるということ、そして最後の5分間で独唱テノールと男性合唱の聴きどころがあるということ、リストがワイマールの宮廷楽長だったこと、ワイマールが《第九》のシラーが住んだ場所でドイツの文学・芸術の町であること、《ファウスト交響曲》と《ワイマール賛歌》についての解説があった。神奈川ハーモニッククワイアの岸本さんからは、メンバーがオペラを中心に活躍している人たちであることが話された。そして常日頃から音楽づくりにドラマを感じていると言うこと、メンバー一人ひとりの自発的な音楽づくりが全体につながっていることなどが話から伝わってきた。《ワイマール賛歌》も聴けて、得した感じ。

本編演奏の方だが…アルチュニアンの作品は、冒頭から懐かしい…というのかな…アルメニアと聞いてなるほど、と思わせる旋律線が登場した。第2楽章では、2種類のトランペット・ミュートが使用されていた。第3楽章の終盤には、圧倒的なカデンツァがあり、盛り上がったところで、シンバルの一撃があった。

トランペットの独奏を担当したバタランは、スター性でアピールと言うよりは、作品そのものへの没入感、あるいはオケとの一体感で聞かせるタイプの人だろうか。実はすごい技巧の持ち主なのに、あまりにも難しい箇所もさくっと吹けて、どこが難しいのかがわからなくなる…という私の大好きな方向かと思った。

アンコール曲(サンドバル:《ミスター・バタラン》)はとてもムーディーなポピュラー曲のアレンジだろうか。フリューゲル・ホーン→クライマックスでトランペット→フリューゲルという持ち替えも行っていた。最後の余韻はもう少し聞きたかったかも。最後の弱音のロングトーンはすごいのだし。

リストの《ファウスト交響曲》といえば、後述するように普段はバーンスタインの録音を聴いているのだが、今回のシュルトのアプローチはそれとはもちろん違っていて、バーンスタインの「暑さ」というよりは、シャープで鋭い感覚が特徴的だったように思う。そしてドラマチックな側面が際立っていて、語り口もとてもうまい。

また、個人的には第二楽章にとても強い興味を抱いた。リストは本当に素晴らしいオーケストレーターだと思うのだけれども、単に大鳴りにするのではなく、いかに自分の目指してる音を効率よく生み出せるかと言うことについての知識がとても豊富だということがわかった。これは彼が宮廷楽団の監督となっていたと言うところも大きいのだろう。やっぱり良いオーケストレーターだなぁと思う。もちろんオルガンの響きやテノール独唱、そして男性合唱なども興味深い。

歌われるファウストの一節は、マーラーの《千人の交響曲》の第2部の終結部にも使わているというのが、改めて面白い。そしてこの女性性なるものと相反するような男性合唱の組み合わせというのも興味深い。最後だけにオルガンと合唱を用いるという仕掛けも贅沢な感じがして、そしてそれが必要であるということも改めてわかった。合唱の響きになかなかじんわりする味わいがあり、やっぱり《ファイスト交響曲》が素晴らしい作品ということが実感でき、生で聴けて本当に良かったと思った。



神奈川フィルを聞いたのは本当に久しぶりだった。そして今回はやはりリストの《ファウスト交響曲》を聴きたくて足を運んだ。《ファウスト交響曲》に関しては、アメリカ留学時代にLawrence KramerのMusic As Cultural Practice, 1800-1900という本の中でフェミニズム理論で《ファウスト交響曲》を読み解く文章があって、あまりその内容は覚えていないのだが、それ以外、何となく曲目だけには親しんでいる、という感じだろうか。Kramer本を読みながら図書館にあったショルティのCDを聞いたのだが、当時はあまり興味が持てなかった。ただ日本に帰ってきて、やはりこれは評論家が推しているバーンスタインだろうと思って、バーンスタインが録音したコロンビア時代の録音の、ニューヨーク・フィルハーモニーだと思ったけれども、CDがあって、改めて聴いて、そちらでは、とても面白いと思った。そして今回の指揮者で、生の演奏を聴いてみたらどうなんだろうなというところだった。



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