2024年3月27日水曜日

ウォールデン弦楽四重奏団によるアイヴズの弦楽四重奏曲第2番 (Period Records)

Ives, Charles. String Quartet No. 2. Walden String Quartet. Period SPLP 501. 
収録作品=チャールズ・アイヴズ:弦楽四重奏曲第2番
演奏=ウォールデン弦楽四重奏団
録音=1946年、ニューヨーク州イタカ、コーネル大学


最近個人のコレクションからお譲りいただいたアメリカの室内楽曲のレコードで、おそらく最も珍しく貴重な1枚。1955年に書かれたハロルド・C・ショーンバーグ著『LPレコード・ガイド:室内楽・器楽曲編』 (Schonberg, Harold C. The Guide to Long-Playing Records: Chamber & Solo Instrument Music. New York: Alfred A. Knopf) には「すでに廃盤となっているが、万が一みつけたときのために心に留めておく価値はある」と記されている。DiscogsによるとLP発売は1956年となっているが、このショーンバーグの記述から、そのデータが誤りである可能性がある。シンクレアの作品目録によると、この演奏は1946年に録音され、1947年頃に SP組レコード 775 として発売されたとある。そうすると、1940年代終わり頃から50年代前半まで録音が出回っていたということになりそうだ。ちなみにリチャード・ワレンによるアイヴズのディスコグラフィーはLP発売を1950年としている。

ただ、ウォールデンSQによる Periodの音源自体は Spotifyでも聴ける (→ Spotify)。またレコードとしても、Folkwaysレーベルからリイシューが出された (Folkways FM- 3369、1967年)。ただオリジナルの盤を私は見たことがなかった。おそらくCDにはなっていないだろう (Smithsonian-FolkwaysがFolkways LP音源をカスタムCDにして売っている可能性はある)。A面に第1・第2楽章(楽章間に長い空白時間が!)、そしてB面に第3楽章という贅沢なカッティング。

一方、上記Spotifyの音源を聴いていただければ分かるように、この演奏は、もともと録音があまりよろしくない (僕が譲り受けたレコードは盤もかなり傷んでいて、特にB面は聴くのが大変だった。ジャケットもスプリットしている)。従って、もともとの演奏を想像力で補って聴く必要はある。

それでも、この演奏が(おそらく無自覚に)マッチョで多分にロマンティックであり、あまりモダンでクールな路線に傾いていないので、充実した響きになっているということなのであろう。マッチョということであれば、緩徐楽章であっても、ラッグルスに通ずる感覚があるのかもしれない。

アイヴズの弦楽四重奏曲第2番の初演は、1946年5月11日、イエール大学の学生によるアンサンブルによるものだった。ウォールデンSQの演奏は、記録として残っている2番目の演奏で、プロの演奏家としては初演だというのがシンクレアの目録にかかれている。1946年9月15日、ニューヨーク州サラトガ・スプリングスで、このウォールデンSQが演奏したのを聴いたルー・ハリソンは「この作品は...アメリカ室内楽の最高傑作だ...。この種の音楽は、50年か100年に1度しか起こらないもので、豊かな信仰と完成の感覚に満ちている」としている。アイヴズ自身も、この作品を「私がやったものの中で最高の一つ」と述べているそうだ。

レコードの方に戻ると、ライナーノーツはヘンリー・カウエルが書いており、執筆同時、アイヴズは70代であったことが分かる。ウルトラモダンの作曲家によって最初に「発見」されたアイヴズは、当初20世紀前衛音楽/実験音楽の中で受容されていたことが良く分かる内容である。

[2024-03-28追記] Smithsonian FolkwaysのカスタムCDに関してはこちらをごらんいただきたい。なおライナーノーツはこのページから無料でダウンロードできるが、執筆者はヘンリー・カウエルではなくサミュエル・チャーターズである。

2024年3月26日火曜日

名古屋フィルハーモニー交響楽団 東京特別公演

2024.3.25 (月) 19:00東京オペラシティ コンサートホール
レスピーギ:交響詩《ローマの噴水》
レスピーギ:交響詩《ローマの松》
休憩
レスピーギ:交響詩《ローマの祭》

個人的には神奈フィルのイメージが強い川瀬賢太郎さんが昨年の4月に名フィル音楽監督に就任して最初の東京公演だそうです。これまで名フィルには何度かアメリカ音楽関連で楽曲解説やエッセイを書いておりまして、そのご縁も感じて行ってまいりました。「ローマ三部作」とあらば、やっぱり生で聴きたいですよね。CDを聴く時のリファレンス・ポイントとできるかな、と思いつつ。

《ローマの噴水》は、やはり三部作の中では描写的な要素が強く、オーケストラのきらびやかな音色が「映える」内容でした。落ち着いて、安心して味わえる演奏でした。「敬虔さ」ということでは、やっぱりこの曲なのかも。あまりカトリック的な要素はこの曲にはないのかもしれないけど。

《ローマの松》は、<アッピア>も含めて、僕なんかはどうしても(最近になって)ナショナリズムを感じてしますのですが、「松」そのものに何かを背負わせるのは難しいともいえますね。日本の能にしても、松は海にも山にも、季節を問わず存在する訳で、松そのものの描写というわけではありませんしね。バンダに関しては、トロンボーンがオルガンの左側、トランペットは下手側・上手側、客席中央に、ぞれぞれ。オルガンはオーケストラだけでは出せない重低音を継続して生み出すのに効果がありますね(《噴水》でもそうでしたが)。ナイチンゲールは、前後左右のサラウンドな感じ。そうそう<カタコンブ>の盛り上がりは、楽曲解説にもありますが「荘厳」でありました。

《ローマの祭り》は、古代の「野蛮」な競技のファンファーレ(バンダはオルガンの左右に2本ずつ)を経て(レスピーギにしては、かなり挑戦的な無調/調性ギリギリだったのかも)、からマンドリンの哀愁を経て、「エピファニー」の騒々しさ(これって一応クリスマスの最終日のはずだけど、イタリアのクリスマスのエンディングはこうなのかな?)。なかなか終わらないエンディングともいえるかと思うのですが、テンポや次のセクションへの入り方も工夫し、緊張感が保たれ、心臓のバクバクも止まりませんでした。あと、タヴォレッタを実演で見られて良かったかも。

音響の飽和状態も含めて、興奮の公演でございました。

この公演をもって引退されるというコンサート・マスターの日比浩一氏が紹介され、アンコールとして、マスカーニの《カヴァレリア・ルスティカーナ》の間奏曲が演奏されました。当たり前ながら「オペラの国・イタリア」を思い出しましたし、弦楽器の美しい歌が、得も知れぬ余韻となりました。





「ローマ三部作」で「お腹いっぱい」 (川瀬さん談) になり「魅惑の夜」(アンコール) を過ごし、初台から横浜へ帰りました。行きは相鉄→東横直通で、新宿三丁目まで乗換なしで来れるのはすごい。帰りも初台→新宿で、JR・相鉄直通線で帰りました。

2024年3月24日日曜日

アメリカの音楽:18〜19〜20世紀 (MIA-117)

The Society for the Preservation of the American Musical Heritage MIA 117.

BENJAMIN FRANKLIN (1706-1790)
Quartetto for Three Violins and Cello
PLAYED BY
MEMBERS OF THE ROYAL PHILHARMONIC (LONDON)

SIDNEY LANIER (1842-1881)
Wind Song (Flute solo), Blackbirds (Flute and Piano)
Danse des Moucherons (Flute and Piano)
PLAYED BY
SEBASTIAN CARATELLI, Flutist and RAYMOND VIOLA, Pianist

CHARLES T. GRIFFES (1884-1920)
Two Sketches for String Quartet Based on Indian Themes
PLAYED BY
THE DELME STRING QUARTET (LONDON)

収録作品=ベンジャミン・フランクリン:3挺のヴァイオリンとチェロのための四重奏曲、チャールズ・T・グリフィス:《弦楽四重奏のための2つのスケッチ》(インディアンの主題にもとづく)、シドニー・ラニアー:《風の歌》、《からす》、《ブヨの踊り》
演奏=ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団メンバー (フランクリン作品)、デルメ弦楽四重奏団 (ロンドン) (グリフィス作品)、セバスチャン・カラテッリ (フルート)、レイモンド・ヴィオラ (ピアノ) (ラニアー作品)


最近個人所有のコレクションからアメリカ音楽関連の音源を譲り受けた。CRIのレコードも多く、そちらはSpotifyなんかで簡単に聴けるしライナーもNew World Recordsのサイトから簡単にダウンロードできる。しかし中には入手が難しいものもあり、これもその1枚といえる。Music in Americaのシリーズは一般発売されておらず、もっぱら図書館に納入されていたアメリカ音楽のシリーズだ。アメリカ音楽遺産保存協会というのだろうか、カール・クリューガー (アメリカ国会図書館サイトの情報によると、彼は「アメリカ人指揮者」だそうだ) が創設し、運営したということになっているらしい。クリューガーが指揮した音源については、Bridge レコードがいくらかCD化している。ただ、CD化されていない音源も多い。

このレコードの場合は、シドニー・ラニアーのフルート作品が、珍しい音源といえそうで、ベンジャミン・フランクリン(開放弦の響きが面白い曲)とグリフィス作品については、コホン弦楽四重奏団による Vox Box レーベルの録音がいまでは入手できる (→Amazon)。

作品として聴いて面白いのは、そうは言ってもグリフィスの《弦楽四重奏のための2つのスケッチ》(インディアンの主題にもとづく) だろう。いわゆる「インディアニスト」の流れの作品で、マクダウェルの《インディアン組曲》と比べると、若干第2曲に下行音型に先住民音楽特徴があるとはいえるが、第1楽章の、神秘的でメランコリックな特徴はマクダウェルと共通したところがある。ただ、おそらくより悲哀のこもった響きがするあたり、コロニアリズムから脱したいという欲求が聴けるのか、どうか(難しいかなあ)といったところだろうか。

ラニアー作品は、米国産無伴奏フルートのレパートリーとして《風の歌》が貴重なのかな、という感じがする。残りの2作品は、学生なんかが取り上げるコンサート小品としては面白いのかもしれない。

“Certified organic.” Performance Today - March 18, 2024

NPRのラジオ番組『Performance Today』で聴いたアメリカ音楽作品のメモ。

Ernest Bloch: At Sea Lara Downes, piano. Album: America Again (Dorian 92207)
ブロッホがフィラデルフィア滞在時に書いた作品なんだそうだ。美しい。

Harry T. Burleigh: From the Southland: Movements 1, 2, 5, 6. Lara Downes, piano. Brevard Music Center, Parker Concert Hall, Brevard, NC.
バーレイっていうと、黒人霊歌のアレンジで有名だけれど、途中に《誰も知らない私の悩み》が登場してびっくりした。1910年の作品。

Margi Griebling-Haigh: Rhapsody for Violin and Piano. Peter Otto, violin; Randall Fusco, piano. Cleveland Composers Guild, Drinko Recital Hall, Cleveland State University, Cleveland, OH
マーギー・グリーブリング=ヘイっていうのは初めて聞く作曲家だ。番組ホストのフレッド・チャイルドによると、彼女は奨学金を得て大学で作曲を学んだのだけれど「アカデミックな作曲」に興味が持てず、最終的にはオーボエ演奏で学位を得た人だそうだ。ただ作曲自体はプライベートな関心として続け、娘の誕生を機に書いたのが、このヴァイオリン・ソナタだそう。「アカデミック」というのは、この場合、やはり「無調」「セリエル」ということなのか、とてもロマンティックなヴァイオリンの小品だ。

Florence Price: Passacaglia & Fugue. Alan Morrison, organ. Spivey Hall, Clayton State University, Morrow, GA
プライスって、ニューイングランド音楽院で作曲と同時にオルガンも習っていたのですね。シカゴ、1930年に虐待のため離婚し、シングル・マザーになった彼女はサイレント映画やラジオのためにオルガンも演奏したことのこと。1927年のこのオルガン作品は、タイトルからしてバッハ色が濃厚。

2024年3月23日土曜日

日本テレビ系列『世界一受けたい授業』最終回「ディズニー音楽の秘密を徹底解説!」の授業

 『世界一受けたい授業』の最終回、ディズニーの授業 (→公式サイト) では、私が書いた本『ディズニー・ミュージック』の内容をうまく番組情報として使っていただいたように思います。また、事前に打ち合わせした時にお話したことも内容に反映されておりました。以下、こういう内容が番組にあったなあという点を列挙してみます。

・民族楽器の使用(ダラブッカ、笛子、スティールパン)

・ディズニー独自色を出すためのクラシックの使用

・『ピノキオ』におけるライトモティーフ(登場人物ごとの旋律など)の使用

・『アラジン』に短く挿入された《星に願いを》

・《朝の風景》のCメロの使用(これは谷口出演の回でも紹介されました)

・『白雪姫』のスコアに書き込まれた「指示」(これも谷口出演の回でも紹介されました)

・『オリバー』におけるビリー・ジョエルの起用

・『バンビ』における「人間の動機」(実はハラミちゃんが言及されていた「雨の音」もあるんです)

・バンビが立ち上がる時のミッキーマウジング

・『ピーター・パン』におけるチャイム音の工夫

・『シンデレラ』から始まった、外部のシンガー・ソングライター起用

その他、知識としては知っていましたが、私がお話していない内容としては、EDMバージョンのディズニー・ソングなどもありますね。

そのほか目黒先生の授業で勉強になった点ですが、例えば「いろんな国の言葉で吹き替えをする時、『キャラクターの口の動きにその国の言葉を合わせる』というルールがあるというのは、実は私は授業のコメントとして学生からそれっぽい内容をいただいたことがあったのですが、ディズニーのプロダクションに関わっておられる方からお話を伺えて本当によかったです。また「キャラクターアニメーションに呼吸の動きを取り入れ、リアルな歌唱シーンを作るという工夫がされている」というのは、気が付かなかった点で、勉強になりました。

今回は収録日・放送日まで時間がなかったと思うのですが、その中で、この1時間枠を作られたのは大変だったと思います。制作関係者のみなさま、お疲れ様でした。また、<協力>として、谷口の名前と所属先をクレジットしていただきました。ありがとうございます。



2024年3月20日水曜日

映画『アメリカン・グラフィティ』

一応お勉強のために拝見。『ALWAYS三丁目の夕日』ですか?というのが最初の印象。それほど美化された1950年代という感じが最後まで残った。まあ、最後に文字で説明される情報で、それが…とも言えなくもないのだろうけど、それって『風立ちぬ』的なところなんかねえ。若い時にこれ観てアメリカに憧れるってことがなくて良かったかも。1973年だから、余計にベトナム前/公民権運動前の「オールディーズ世界」っていうことになるのかな。いやもちろん、この映画が大好きっていう人がいてもいいし、肯定的に観るひとを否定するつもりはない。

しかしこれ、ジョージ・ルーカス監督なのね。しかも、やっぱりあれ、ハリソン・フォードかぁ。『スター・ウォーズ』の時ほど顔に彫りがないように思えた。

2024年3月19日火曜日

ジェイコブ・ドラックマン作品のレコード

ジェイコブ・ドラックマン:《アニマスIII Animus III》(1968)、《シナプス→バレンタイン Synapse —> Valentine》(1969) アルヴィン・ブレーム (コントラバス) Nonesuch 71253 (レコード)

2部分からなる作品。まず後半の<バレンタイン>はコントラバスのためのヴィルトゥオーゾ・ピースといえるのだろう。動物的な感覚を感じさせる、直感的にも楽しめる作品。共鳴体を叩いたり、声を出すなど、通常のコントラバスの演奏法を稀にしか使わない作品ともいえる。これは県立音楽堂でライヴを聴いた作品だね。第1部<シナプス>は電子音のみによる。《バレンタイン》につながる意味を持たせているようだけれど、電子音の方にどのくらい減衰音があったのかどうか。ドラックマンが、その後ネオロマンに転向しなかったら、どうだったのかなあ?