小学校の鑑賞教材として使われ、あるいは運動会の音楽としてCDに収録されている《国際急行列車》という曲がすごく気になってしまい、いろいろ調べてみました。
平成14年度『音楽のおくりもの (小学校音楽)』2 鑑賞 (DCT-702) という教科書準拠CDのライナーノーツ、12ページによりますと(著者不明)、作曲者のブーエ(E. Boue)は生没年不詳。国際急行列車のオリジナル・タイトルは "Galop du Chemin de far" であり、楽譜はフランス のアルエット社より出版されていたが、アルエット社は、20世紀初頭に他の会社に吸収され、現在出版されているオリジナルの楽譜はないということでした。
ちなみに "Galop du Chemin de far" というタイトルで IMSLP を探ってみると、ワルトトイフェル作曲のピアノ曲に同じタイトルの楽譜がみつかります。作曲者がブーエではないので、当然のように音源で聴く《国際急行列車》とは別の曲でした。
それで、AIに《国際急行列車》について尋ねてみたところ、Apple Music からのデータを引っ張ってきたようで、そこでは作曲者の綴りが Bouet となっているようです。さらに曲目は"Galop du Chemin de far" ではなく英題が "International Express"、 仏題が "L'Express International" ということでした。それにしても、ファーストネームが E. としか分からず、フルでないのは気になります。今後の課題として、いまのところは、ここまで。
ただ、《国際急行列車》の音源自体は日本でも古くから発売されていたことが分かりました。YouTubeに挙がっている《国際急行列車》の動画を見ると、文部省制定の観賞用曲として日本コロムビアがリリースした『幼稚園レコード』の1枚 (AK 4) に、この曲が収録されていました。この音源が発売された頃には作曲者がブーエというのが分かってなかったのか、作曲者不詳とラベルに書かれています。また演奏をしているのはセレブロフ指揮ロシヤ管弦楽団という団体であることも分かります ( ロシヤ管弦楽団 国際急行列車)。同じレコード番号の音源は、色の違うレーベルでもリリースされていたようです (SP盤紹介ー33 セレブロフの「国際急行列車」(てこな音盤倶楽部のレコード・ブログ))。
別の動画では『国民学校芸能科音楽 鑑賞音盤 初等科第一学年用』のレコードとして、同じ音源が挙げられていました。ということは、《国際急行列車》という曲は戦前から学校で聴かれていた可能性がありそうです。(国際急行列車 國民學校藝能科音楽鑑賞音盤初等科第一學年用)
ところで上述した『幼稚園レコード』の画像にはAK 4というレコード番号の他に、2W 109276というのもありました。おそらくこれは、海外で発売された音源が原盤となっているっぽいので、この番号で検索してみたところ、Discogs のデータベースから、それっぽいものが出てきました。J. Serebroff's Orch. – The International Railroad Express / Polka Frieda というのがそれなのですが、ここから分かることは、《国際急行列車》という日本語タイトルの元となったのは英語の "The International Railroad Express" であったということです。また『幼稚園レコード』の「ロシヤ管弦楽団」に関しては、J. Serebroff's Orch. から来ていると思われることです。ただ、J. Serebroff の名前から、どうして「ロシヤ管弦楽団」に至ったのかが気になります。
Discogsのデータベースによると、《国際急行列車 (The International Railroad Express)》が録音されたのは、1928年5月、ということで、なかなか古い録音になりますね。しかも録音場所が他ならぬニューヨークです。またレコード番号が Columbia 12081-F という番号で、ちょっと調べてみたら、このFシリーズというのは、分類としては "10-inch general ethnic instrumental" なんだそうです(Columbia Records 78rpm Numerical Listing Discography)。すなわちヨーロッパからアメリカへ渡った移民をターゲットにした録音シリーズである可能性すらありそうです(語学レコードもFシリーズから発売されていたようですね)。
残念ながら、J. Serebroffという人物が誰なのか、私には分かりません。Google AIによると「指揮者またはバンドリーダー」で「当時のスタジオ・ミュージシャン、あるいは移民コミュニティの音楽家であったとされていますが、個人の詳細な伝記的記録はほとんど残っていません」とのこと。ただ、このAIの回答には何か典拠らしきものが示されていないので、それを信用していいのか分かりません。このAIは、さらに続けます。
当時は、レコード会社の専属編曲家やスタジオのリーダーが、特定のジャンルを録音する際(例:今回はロシア風、今回はポーランド風など)に、こうした個人の名前を冠した即席の「オーケストラ」や「アンサンブル」を名乗ることが一般的でした。