2005年6月22日水曜日

A Festival of Russian Music

フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団 米RCA Victrola VICS-1068 (LP)

チャイコフスキーやグリンカといった国民楽派の音楽では、私など、ついロシア民謡風の(あるいはロシア民謡そのものの)旋律にばかりに耳が行ってしまいがちだ。しかしこのライナー指揮の見通しの良い演奏では、旋律以外に同時進行する様々な要素を聞くことになり、結果として曲が実に立体的に感じられる。「本場」ロシアの指揮者・オーケストラ、あるいはその録音にしばしば聴かれるどろどろとした感じ、渾然一体となって迫ってくる「戦車」といったステレオタイプに泥酔するのであれば、この録音はたぶん失格なのだろう。しかし極めて落ち着いて楽譜に流れる線を丁寧に紡ぎ出す演奏という印象を持った。特に《スラブ行進曲》に感心した。楽曲分析をするのにはいいのかもしれない。

Marche slave, by Tchaikovsky.--A night on Bare Mountain, by Moussorgsky.--Russlan and Ludmilla: Overture, by Glinka.--Marche miniature, from Suite no. l in D minor, op. 43, by Tchaikovsky.--Prince Igor: Polovtsian march, by Borodin.--Colas Breugnon, op. 21: Overture, by Kabalevsky.

2005年6月13日月曜日

A Portrait of George Szell

The Cleveland Orchestra: One Man's Triumph (a production of Henry Jaffe Enterprises for the Bell system). Kultur(VHSビデオテープ)

1966年に『ベル・テレフォン・アワー』にて放送されたジョージ・セルのドキュメンタリー番組。ブラームスの《大学祝典序曲》のリハーサル風景では、セルが聴きたい箇所を絞って選び、演奏する。楽団員への指示にしても、歌って聞かせるのではなく言葉を使って説明調に進める。吉田秀和氏が『世界の指揮者』で書いていたのと同じような情景だ。そしてラフェエル・ドルーリアンとセルによるアルバン・ベルクの練習風景が続く。セルはもともとピアニストとしてキャリアを始めたと知っていても、ベルクのヴァイオリン協奏曲の伴奏パートを自ら弾いてリハーサルを行うというのは大した才能である。

次にルイス・レーンとセルの対話。今度レーンがメンデルスゾーンの第1交響曲を録音するということでセルに相談だという。彼はメンデルスゾーンの作曲プロセスに触れ、3楽章に2つのバージョンがあり、録音ではメヌエットとスケルツォのどっちを選んで演奏すべきかをセルに尋ねる。セルはルイス・レーンという名前がレコードのラベルに載るのだから、最終的決断は自分で行うべきだと言い、それぞれの特色について簡単に述べるだけにとどめていた(他楽章との調関係など)。しかし楽譜の選択について考える時、単に楽譜だけでなくて、作曲家の伝記的な状況も考えるというのは、音楽学者ならともかく演奏家もやるのだということに改めて気が付いた。

続いてジェームズ・レヴァイン(若いっ!)、スティーヴン・フォーマン、マイケル・チェリーの3人の指揮レッスンの様子。まずは一人一人ではなく、3人に語りかける。スコア・リーディングやスコア・プレイングの話。コダーイによるシステムだそうだが、まずバッハのインヴェンション、次にコラール、そして弦楽四重奏にトライせよという指示をしている。作品を知るために、こういう学習は不可欠だという。この後レヴァインから、ピアノ相手の指揮レッスンが始まる。

《ドン・ファン》の冒頭
・アウフタクトはできるだけ小さく振る
・音楽家は曲を実際に演奏し始める前に、心の中で音楽を感じていなければいけない。

ベートーヴェン5番の冒頭
・フェルマータの切り方が大切。次のモーションとの関係でどうやって切るかを考える。

最後はベートーヴェンの第5交響曲のリハと本番。アナウンスが「封建主義」は「独裁政治」ではないというコメント。セルに対してはしかし後者のように感ずる人も少なくなかったと聞くが、実際はどうだったのだろう。リハ風景を見る限り、彼は団員を叱りつける訳ではない。しかし、ずっと一人で振りっぱなし、話しっぱなしという印象を覚えた。まあそのこと自体はセルだけということではないし、おそらく彼のリハのやり方、話す内容(楽譜をコピーして覚えているような、知的な印象)、ニュアンスといった、別の要素が彼の印象につながっているのだろう。

2005年6月5日日曜日

ベートーヴェン、弦楽四重奏全曲シリーズ、第5回終了

6月2日、田尻酒店で行われた演奏会が無事終了。今日の『北日本新聞』の「天地人」にも紹介されている。

約150人の聴衆で埋め尽くされた会場では、場所によって多少響きが違うけれども、「室内楽」という趣旨にぴったりの、非常に間近な音体験がなされたと思う。そしてこのシリーズは聴衆・演奏家・裏方の三者がそれぞれ支え合う、充実の企画ではないだろうか(自分も企画に携わっているから、客観的に言えることではないけれど)。今回このことを改めて実感することになった。

ベートーヴェン、とりわけ弦楽四重奏が難しいと考えられてきたのにはどういう要因があるのだろう。おそらく音楽そのものに接した方々は、それほど「難解」とは思ってないのではないかと思う時がある。確かに楽譜を見て形式を言い当てることは難しい。どうしてこんな作品がかけるのか分からないと感じることも多い。

しかし一方で、響きそのものはベートーヴェンの時代のクラシックだし聞き慣れないということはないように思う。私の母親も来ていたが「ベートーヴェンの難しさ」には気付いていないようだった。形式的には混乱しているけれど、響きそのものに拒絶感を感ずる事は少ないのではないか? 不協和音を継続的に聞く20世紀音楽の無調作品とは違うのではないか? 前回の《大フーガ》に感銘したという趣旨の感想もプログラム冊子に寄せられていたではないか。

やはり実際に聴いてみるということが大切なのだろうと思う(もちろん、それは20世紀音楽についても同様である)。

Spiritual Traditions in the United States

WFSU-FM (NPR International) 1997年2月23日エアチェック

ラジオのスイッチを入れたら突然面白い番組をやっていたので、いそいでカセットを用意して録音した番組。私の聴いた部分は、白人・黒人霊歌の伝統という大げさな歴史ではなく、もっと最近のコンサートで上演されることを前提としたモダンな合唱曲として編曲された霊歌が大半だった。LPレコード(しかも状態は必ずしも良くない)も使っているので、かなりザラザラした雑音も生々しく放送されている(日本でこんなレコードをかけたら苦情がくるのではないだろうか)。エアチェック・テープはジェスター・ハリストン、ナタニエル・デット、ウィリアム・レヴィ・ドーソン(のアレンジ)などから始まった。このうちドーソンは「古典」であり、これからも演奏されるだろうというコメントがある(どうやらこのコメントをしているのは、フロリダ州立大学のアンドレ・トーマスのようだ)。

この後に紹介されたタスキギ・インスティトゥート・コワイヤ(ドーソン指揮)の霊歌をボーっと聴いていたのであるが、このレヴィ・ドーソンのアレンジがだんだんとフォスター歌曲のアレンジに聴こえてきた。なぜだろう。もしかするとフォスターの歌曲と黒人霊歌の スタイルはかなり近いのか???

番組はこの後ロバート・ショウ合唱団へ。たくさんレコードがリリースされ、全米の合唱指揮者が購入し、レコードの演奏をモデルとしたため、かなり影響力があったそうだ。確かにレコード店には黒人霊歌以外にもたくさんのCDが並んでいた。ショウ合唱団のための編曲を多く手掛けたアリス・パーカーも電話で登場。

もっと新しい編曲(いずれも黒人による)ではブラジール・デナード、モーゼス・ホーガン、そして番組にも出演しているアンドレ・トーマス自身のものも紹介されていた。どれもヒネリが効いていて素晴らしい。私もトーマス編曲の“Keep Your Lamps”を、当時通っていたルター派の教会で、聖歌隊のテナーとして歌ったことがある。ラジオでかかっていたSt. Olaf合唱団のようにはとてもいかないけれど (^_^;; 歌いながらゾクゾクするような、歌うこと自体が感動体験という感じの編曲だった。

他にはラリー・フェラル、ドルフェス・ヘールストークという人の編曲も紹介されていた(これらも電話でのインタビュー付き)。

Show Boat Tunes 1840-1900. 米Desto DST-6423 (LP)

ブラック・フェイス、ミンストレル・ショーという言葉がライナーに踊っているが、演奏者も作曲者も書いていないので、極めて不親切。もちろんいつ録音したかも分からない。モノラル録音。ミンストレル・ショーは、時代考証をした録音が他にあるのだけれど、"Show Boat Tunes" というタイトルにすっかり騙されたようだ。伴奏は多少南米入ってません(マリアッチ風の楽器法)? まあリスナーが聞き流すということならば、問題ないということなのだろう。ちなみに収録曲はStop that Knocking at the Door, Way Down in My Heart I've Got a Feeling for You, Somebody's Grandpa, Soft Shoe Dance, History ob de World, Nelly Bly, Angel Gabriel。裏面(A面)はBurrill PhilipsのSelections from "McGuffey's Readers"である。