2005年5月1日日曜日

宇宙の音楽(ムジカ)が聴こえる

こころの時代~宗教・人生 「宇宙の音楽(ムジカ)が聴こえる」 皆川達夫 NHK教育放送

昨年の音楽学会でも研究成果を披露されていた皆川達夫さんが自らの生涯を語られている番組。音楽に対する熱き想いが伝わった。

ジョセフ・カーマンの本から推測すると、彼が留学した時代というのは、おそらく今よりもずっと音楽学における記譜法の重要性は高かったと思う。現在でもその伝統は受け継がれており、20世紀アメリカ音楽を研究する私でも、中世やルネサンス音楽の記譜法は一通り勉強した(中世・ルネサンス各1セメスター)。皆川さんの時代は、まだ教科書もなかった頃だったのだろうか。しかし反対に、授業でドライにアイディアを学んだのではなく、実例から多くを学ばれたと思われるので、それはある意味うらやましいということになるかもしれない。

現在はスタンダードな記譜法の本が2冊あるので記譜法は体系的に学べるが、毎週毎週新しい課題をこなして通り過ぎていくという感じで、音楽というよりはパズル解きのような感覚になっていたことも否定できない。ただ実際に「翻訳」してみることは大事で、例えば理論だけで説明できない、音符や歌詞の書き(写し)間違い、インクのしみなどを判断するのは、現代の印刷譜以上に問題となってくる(おそらく五線譜によるマニュスクリプトにも存在する問題だろう)。

この「翻訳」作業、グレゴリオ聖歌のネウマ譜はまだそれほど難しくない。しかし定量記譜法に入ってくると大変。「今すぐやってみろ」と言われたら、どのくらいできるか、ちょっと心配でもある。記譜法というのは音楽学の授業の中でももっともハードなものの一つだった(語学のハンデが低くなるという利点はあるが、アメリカ人にとっても大変な授業なのである)。

現在は主要なマニュスクリプトはファクシミリになっているので、基本的なリサーチは大学図書館でも可能だろう。ただ学術研究の最先端に立つには、やはりオリジナルを見る必要が出てくるだろうと思う。もっとも現在もマイクロフィルムで取り寄せることは行われているし、私のいた大学の先生は、しきりにデジタル化を提案していた。家にいながらマニュスクリプトの詳細がデジタル・データとして見られるようになると、かなりこの分野の研究は楽になるだろう。

皆川さんはかつて『音楽芸術』に記譜法の歴史について連載されていたが(国立音大で複写したものがここにもいくつかある)、記譜法の歴史の本を書きたいとどこかでおっしゃっておられた。日本人の手による記譜法の歴史の本があると、確かに基礎研究の分野では大きなツールになると思う。

彼の指揮する合唱団の演奏の一端を聴いたのも初めて。私のいた大学でやっていたヴォーカル・アンサンブルはもっと近年の演奏習慣研究に則したものであったが、日本におけるパイオニア的活動であることは変わりない。

そうそう、音符の書いていない文字ばかりのマニュスクリプトで思い出したのが、カルミナ・ブラーナ。そのほとんどには楽譜が残っていないか、残っていたとしても、歌詞の上にハネ印や点が書かれている簡素なもの。結局このマニュスクリプトだけでは分からず、他の聖歌の楽譜をいくつか探すことになった。私も大学図書館で奮闘していたのを思い出す。ラテン語の基礎も勉強したなあ。懐かしい。

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