2024年8月9日金曜日

レオン・ルイス:《クァルテット・アメリカーナ》(1960)

ルストガルテン四重奏団 Bristol Records 番号なし (片面のみのレコード)


とある方から譲り受けたレコード・コレクションの中の1枚。片面のみ溝が刻まれているレコードは初めて所有することになったかもしれません。作曲者はレオン・ルイスとされていますが、このレコードのジャケットは手書きの赤字で、それ以上の情報はありません。


ということで、調べてみました。

レオン・ルイスは1890年3月30日にミズーリ州カンザスシティで生まれ、シカゴに育ちます。幼い頃から音楽の訓練を受け、「ピアノの神童」として奨学金を得てウイーン国立音楽学校に入学。 そこでピアノをテオドル・レシェティツキーに、指揮と作曲をヘルデン・グレーデラーとテルンに師事したという情報を得ました。テルンというと、カーロイ・テルンという作曲家が有名なのですが、年代的にはルイスが生まれる前に亡くなっているので、2人の息子のうちのどちらか、ということになるんでしょうか? パッと調べてみたところ、息子のウィリもルイスもウイーンでピアニストとして活躍したっぽいですが、エルヴィン・シュルホフも師事したというウィリだったのかなあ?

さてルイスは1910年に帰国し、コンサート・ピアニストとしてヨーロッパ、アメリカ、カナダをツアーします。時代柄、サイレント映画の音楽を担当した経験もあったようです。1920年代にはシカゴのラジオ局WBBMで音楽監督を務め、その後、CBSラジオ・ネットワークの交響楽団の指揮者を長年にわたって務めました。作曲活動に専念するようになったのは1945年頃からで、1960年10月5日、ロサンゼルスの娘を訪ねている最中に亡くなったということです。

《クァルテット・アメリカーナ》は1960年の作品。同年にルイスは亡くなっているので、最晩年の作品ということになりますね。レーベルにもある通り3楽章形式です。どのような経緯でこの曲を作ったかについては、正直分かりません。とあるレコードの解説には「自由、進歩、そして人生を満喫することへの関心」を表現しているとありましたが、うーん、それはタイトルがアメリカだからというところから出発して書いた、アメリカの美化のような感じもしなくもない…。

第1楽章の<ニュー・ランチョ・ディアブロ>ですが、これはどうやらカリフォルニア州にある「ランチョ・ディアブロ」というコミュニティの名前のようで、アメリカ西部との関わりがありそうな雰囲気が漂っています。荒野へ向かっての叫びのような楽想から始まり、ワイルドな感覚があります。

第2楽章は<ニューオーリンズ>と題されており、ついディキシーランド・ジャズなどを想像してしまうのですが、あに図らんや、緩徐楽章になっています。あえていえば、黒人霊歌からのインスピレーションがあるということなのかな。

第3楽章は<ニューヨーク>ということで、なにかジャズっぽい音でもあるのかなと思ったのですが、そういうものはなく、モダンで活力のある都市を描いたものなのでしょうか。確かに第1・第2楽章とは明らかに違う感覚はありますね。

ということで、全体として、曲がどれほど「アメリカーナ」なのかは分かっていないのですが、アメリカを形作る地域的な違いを作曲者なりに音で描き分けたという感じの作品なのかもしれません。

2024年8月7日水曜日

ワリングフォード・リーガー:ピアノ三重奏曲 作品1 (1919-20)

ジョン・コヴェッリ(ピアノ)、ウィリアム・クロール(ヴァイオリン)、アレキサンダー・クーゲル (チェロ) Columbia MS 6189
archive.org




リーガーというと、アメリカ音楽史的には、いち早くセリエル技法を取り入れた作曲家として知られていると思うのですが、この作品1は、ロマン派の延長線上にありますね。ちょっと驚きました(リーガーに言わせると「ポスト・ロマン派」らしいのだけれども)。パデレフスキ賞というのも受賞しているらしいです。

ピアノ三重奏曲が作曲されたのは1919年から20年にかけてでしたが、初演は10年後の1930年で、場所はニューヨークのボヘミアンズというところでした。このボヘミアンズというのは「ニューヨーク・ミュージシャンズ・クラブ」とも呼ばれており、ニューヨークの著名な音楽家と音楽愛好家からなる組織だそうです。そして会員のためのディナーや室内楽コンサートを企画し、若いアーティストを支援し、著名な音楽家を顕彰しているとのこと。

僕が驚いたのは、リーガーがこんな曲を書いていたのか(考えてみればそんなに驚くべきことじゃないのかもしれないけど…最初の作品からバリバリ無調というのも時代的背景からして不自然なんだろうし)というだけでなく、作品自体がとても魅力的だということです。「書く力」がある人だったのですね。

なおYouTubeにも音源がアップロードされていましたが、残念ながら左右が逆になっています。ヴァイオリンが右から、チェロが左から聞こえてきます。

2024年5月18日土曜日

《山の音楽家》の原曲?→ Sing Hallelujah, Praise the Lord! (Swertner/Bechler)

Wikipediaで《山の音楽家》を調べると、おそらく歌詞の内容からドイツ民謡のIch bin ein Musikante が原曲であると書かれている。ただ、そこから原曲とされているYouTube動画を見ると、旋律は全く違っていてむずむずしたりする。歌詞にしても、小鳥・うさぎ・小リスなどの動物が登場しないのである。

ところがアメリカの音楽史を調べていて、Sing Hallelujah, Praise the Lord! というモラヴィア派の賛美歌に出会った(チューンネームはBECHLAR。19世紀、John Christian Bechlerという人が作曲したことに由来する)。そしてこの賛美歌旋律が、《山の音楽家》の歌いだしと全く同一なのである。AABA形式で、Bの部分は《山の音楽家》とは全く違うのだが、A部分については、Ich bin ein Musikante どころではない一致だ。


この旋律と《山の音楽家》に何か関係があるのか、あるいはこの賛美歌が、そもそも何か音楽家を扱った民謡を参照しているのか、現在の自分には突き止められていないのだが、とりあえずモヤモヤするので、投稿しておきたい。

2024年4月25日木曜日

ディズニー・マジカル・ワールド (エリック・カンゼル指揮シンシナティー・ポップス)

意外といいんですよ、このアルバム。もちろんオリジナルじゃなくて、カヴァーになると思うんですけど、「ディズニー・オン・クラシック」が好きな方だったら、これも楽しんでいただけるんじゃないかと。ステージ感満載ですし、録音もよいですし、アレンジも素敵かなと。

メンケンが担当した3作品とエルトン・ジョンの『ライオン・キング』ということで、「ディズニー・ルネサンス」の最盛期の名曲揃いですから安心ですね。

『ライオン・キング』の《サークル・オブ・ライフ》は、レボMの「ガツーン」というヴォーカルじゃないし、歌は斉唱で始まるので、「えっ」と思われるかもしれません。でもオープニングはハンス・ジマーのスコアでLKの世界に浸れるんですよね。歌本体もサビまでくれば、これもありかも!と思えるんです。


収録内容
1 『ライオン・キング』組曲 《サークル・オブ・ライフ》
2 『ライオン・キング』組曲 《王様になるのが待ちきれない》
3 『ライオン・キング』組曲 《ハクナ・マタタ》
4 『ライオン・キング』組曲 《準備をしておけ》
5 『ライオン・キング』組曲 《愛を感じて》
6 『ライオン・キング』組曲 《キング・オブ・プライド・ロック》
7 『アラジン』組曲 《アラビアン・ナイト》
8 『アラジン』組曲 《ひと足お先に》
9 『アラジン』組曲 《フレンド・ライク・ミー》
10 『アラジン』組曲 《ホール・ニュー・ワールド》
11 『アラジン』組曲 《アリ王子のお通り》
12 『リトル・マーメイド』組曲 イントロダクション
13 『リトル・マーメイド』組曲 《パート・オブ・ユア・ワールド》
14 『リトル・マーメイド』組曲 《アンダー・ザ・シー》
15 『リトル・マーメイド』組曲 《哀れな人々》
16 『リトル・マーメイド』組曲 《レ・ポワソン》
17 『リトル・マーメイド』組曲 《キス・ザ・ガール》
18 『リトル・マーメイド』組曲 《ハッピー・エンド》
19 『美女と野獣」組曲 プロローグ
20 『美女と野獣」組曲 《ベル》
21 『美女と野獣」組曲 《ひとりぼっちの晩餐会》
22 『美女と野獣」組曲 《ガストン》
23 『美女と野獣」組曲 《美女と野獣》

2024年4月23日火曜日

モートン・グールド:《アメリカン・シンフォネット》(?) 第1番

 Morton Gould: American Symphonette #1, 1st mvt. only. Gould cond. unk. orch. 
モートン・グールド:《アメリカン・シンフォネット》第1番、第1楽章 (アレグロ・モデラート) のみ モートン・グールド指揮オーケストラ (詳細不明) 

モートン・グールドの《アメリカン・シンフォネット》のシリーズは、確か4番までが残されていたと思うのだが、商用発売されている音源で聴けるのは2番以降の3曲のみ。1番というのは、この録音を聴くまで一度も聴いたことがない。

この録音はラジオ放送のトランスクリプション・ディスクなのか、レコード盤特有のノイズが入っている。番組のホストは曲を《アメリカン・シンフォニエッタ》と紹介しているが、単に間違ってタイトルをアナウンスしているのだろうか…。金管楽器やギター、サキソフォンはノリノリのスウィング・リズムなのに対し、弦楽器やフルートをはじめとした木管楽器はクラシックのスクエア・リズムで、それがまた絶妙に面白い。第2楽章<スウィング・タイムのメヌエット>も引き続き演奏されていたみたいだが(1楽章ごとにアナウンスが入っていたっぽい)、ここには収録されていない。第1楽章だけでも、なかなか面白そうなので、実に残念。

なので、なんでこの《アメリカン・シンフォネット》の第1番は録音されないのか、前々から不思議なのだが、もしかすると楽譜が残っていないということなのだろうか?

なお曲については、こちらでも紹介した。

2024年4月20日土曜日

神奈川フィルハーモニー管弦楽団 みなとみらいシリーズ定期394回(感想メモ)

 開演時間:14:00
公演場所:横浜みなとみらいホール
指揮者:沼尻竜典(音楽監督)

ブルックナー/交響曲第5番変ロ長調(ノヴァーク版)

2024-25シーズン最初の定期公演ということで「記念碑的な作品」を選んだという沼尻氏。メリハリの効いたコントラストに目を瞠る第1楽章から、はっきりくっきりした旋律線が聞こえてくる。そして全楽章に共通する特徴として、金管のハーモニーの気持ちよさ。情熱を込めて奏される低弦のトレモロにも心が揺り動かされる。単なるアルコの引き伸ばしでないところにも、きっと意味があるのだろう。

第2楽章は、さらりとしつつも深い歌い込み。美しい。分かりやすく整理されたスケルツォ(第3楽章)につづき、第4楽章は、3楽章までの主要動機が散りばめつつ始まり、立体的でドラマチックなフーガに続き、ブルックナーとしては意外なほどに作られた抜け目ない充実したフーガを、沼尻氏は畳み掛けるようにがっちりリードした。

これは、聴衆がすぐにブラヴォーを始めるんだろうな、と思っていたら、案の定、最後の一音が高らかに鳴り響くとすぐにブラヴォーが。沼尻氏は「最後の一音の余韻まで」を想定していたのか、必死に拍手を止めてほしいというジェスチャーを送っていたようだった。最近ネットでは「フライング・ブラヴォー」について批判的な論調が展開しているようで、それはそれで一定の正当性を感じつつも、今回のこれは、仕方ないところもあるんだろうなあと思ったりも。気持ちが抑えきれなくなる、というくらいの良い感情の流れだった。聴衆の反応までをコントロールすることは、そもそも不可能だし、難しいところではある。

2024年4月18日木曜日

ドン・ギリス作品のSP音源

ドン・ギリス:《辺境の町の肖像 Portrait of a Frontier Town》組曲から第3曲<牧場主の家でのパーティー Ranch House Party>演奏=スタンフォード・ロビンソン指揮ニュー・コンサート・オーケストラ(New Concert Orchestra; Stanford Robinson, conductor)

ギリス:《これが我らのアメリカだ This is Our America》作曲者指揮管弦楽団、レイ・ミドルトン (Ray Middleton 独唱)、リズ・モーガン・シンガーズ (The Rhys Morgan Singers)
ドン・ギリスというと、陽気で能天気な作風で、また「アメリカン・サウンド」そのものという感じがする。風の抜けるような勢いのようなもの、あるいは団結して歌い上げたくなる気持ちの良さというか。《これが我らのアメリカだ》は愛唱歌<アメリカ>(チャールズ・アイヴズがオルガン変奏曲を作った旋律)なども引用されていて、時代的に第2次世界大戦と関係があるのかな、という感じがする。ただarchive.orgのデータだとリリースは1951年とあるので、ちょっと分からない。

《辺境の町の肖像 Portrait of a Frontier Town》は、ギリス自演のLPがLondon (英Decca) から出ていたと記憶しているが、SPでは、別の指揮者による録音もあるということか。