2025年3月8日土曜日

即興II (ジェリー・ハンコック)

 Improvisation II. Gerre Hancock, organ. Gerre Hancock (自主制作盤) 29307


Side 1
A mighty fortress is our God (Ein' Feste Burg; Martin Luther, 1529)
Amazing grace! how sweet the sound (Amazing Grace; Early American Melody)
Abide with me: fast falls the eventide (Eventide; William H. Monk, 1861)
For the beauty of the earth (Dix; Conrad Kocher, 1838)
O beautiful for spacious skies (Materna ; Samuel A. Ward, 1882)

Side 2
He is risen, he is risen (Meander; Joachim Meander, 1680) 
Were you there when they crucified my Lord  (Were You There; Early American Melody)
How firm a foundation, ye saints of the Lord (Foundation; Early American Melody)
What child is this, who, laid to rest (Greensleeves; English Melody, before 1642)
The God of Abraham praise (Leoni; Traditional Melody)

基本的に賛美歌を題材にした即興演奏で、即興といっても、いわゆる「前衛」的な要素は皆無です。ただとても品が良く、かつ聴き応えのある内容です。ライナー・ノーツによると「即興演奏の本質は自発性であるため、テープは編集も加工もされておらず、周囲の雑音やレジストレーションの変更も含まれていると」あります。まず「えっ、これ全部即興なの」「通しで録音しただけなの」と驚かされます。周囲の雑音やストップの切り替えとか、全然気になりませんでした。

収録曲ですが、《神はわが砦 (神はわがやぐら) 》 (A面1曲目)、《くすしき恵み (アメイジング・グレイス) 》(A面2曲目)、《グリーン・スリーブス》 (B面4曲目)くらいは、ぱっと聴いて分かる人も多いでしょうか。もちろん《グリーン・スリーブス》はもともと賛美歌ではないのですが、賛美歌としても歌われている、という文脈の収録になるのかもしれません。

選曲としてびっくりするのは、A面5曲目です。アメリカ人だったら誰もが知っている《美しきアメリカ》または《アメリカ・ザ・ビューティフル》の旋律なのですね。サミュエル・A・ワードという人が作曲しているのですが、もともとは"O Mother dear, Jerusalem"という賛美歌の歌詞に付ける旋律として1882年に考えられたとものの、1892年まで出版はされなかったそうです。それで、有名な《アメリカ・ザ・ビューティフル》の歌詞はキャサリン・リー・ベイツという人が1895年に書き、その両者が最初に合わさって歌として発表されたのは1910年とのこと。現在はむしろアメリカ独立記念日なんかに歌う愛国歌としての知名度が高いですよね。なので、これを賛美歌の文脈で入れたというのは、「通」な感じがします。

演奏をしているジェリー・ハンコック (1934-2012) はテキサス州生まれ。テキサス大学オースティン校に学び、大学院はニューヨークのユニオン神学校 (実は初めてニューヨークに行った時に、図書館に寄ったことがあります) に進みます。フランスにも行ってたっぽく、マリ・クレール・アランに学んでいたり、オルガン即興はナディア・ブーランジェに教わったこともあったらしい。その後、ジュリアードで教鞭を執り、イエール大学やイーストマン音楽学校にも客員教員として即興を教えていたとのこと。このレコードを作った時、彼はニューヨークのセント・トーマス教会のオルガニスト兼合唱団長だったようです。

収録時間がそれぞれの面で20分もないのですが、そのためか、内周部分も音がひどく劣化することなく聴けます。

このレコードに最初に出会ったのは、新潟大学の音楽学の先生の研究室でしょうか。お借りしてカセットに入れていました。しかしカセット音質に満足できす、オークションで落札。届いたのが驚くほど盤質が良いもので、とてもうれしいです。

2025年2月28日金曜日

セッションズ:弦楽四重奏曲第1番 (1936)

 セッションズ:弦楽四重奏曲第1番 (1936)  アマド弦楽四重奏団 Apex 1243 (LP)



セッションズ作品はモデラート、アダージョ・モルト、ヴィヴァーチェ・モルトの3楽章からなる。12音技法を用いているらしい。エリザベス・スプレーグ・クーリッジ夫人によって委嘱され、1937年4月にワシントンDCのクーリッジ弦楽四重奏団によって初演された。

セッションズの作品は時折ちゃんと旋律が耳に入ってくるのが「分かりやすい」と思われるのかもしれない。ただ何度か聴かないと、響き全体の中にそういう旋律が埋没してカオスな無調音楽をみなされてしまう可能性はありそうだ。これより古い録音としては、プロ・アルテ弦楽四重奏団のもの (→Spotify) がある。

このApex盤の演奏をしているアマド(アマドー?)弦楽四重奏団については幸松肇氏の『世界の弦楽四重奏団とそのレコード』が、このレコードのライナーをもとに紹介をしておられるように、1970年に結成されたアンサンブルで、メンバー全員が女性である。

併録のウィリアム・フラビジオという作曲家について、詳しくは知らない。ぱっとネット上の情報を探してみるとフランク・シナトラやダイアナ・ロスやペギー・リーやカウント・ベーシーやレイ・チャールズなどと親交があったというのがあったが、全然そんな感じはしない。作品が「ロジャー・セッションズへのオマージュ」だろうか。

レフラー:《異教徒の詩》(ストコフスキー指揮ヒューストン交響楽団)

Charles Martin Leoffler, A Pagan Poem, Op. 14. Houston Symphony Orchestra; Leopold Stokowski, conductor. EMI Classics 7243 5 67569 2 2

私が持っているのはオルフの《カルミナ・ブラーナ》とのカップリングされたCD。スクリャービンの《法悦の詩》やグラズノフの《ライモンダ》とカップリングされたCDもあるっぽい。

自称アルザス地方のミュルーズで生まれ・実はベルリン近郊のシェーネベルク生まれとされるレフラーというと、グリフィスとともに「アメリカの印象派」的な扱いを受けているように思うのだけれど、この作品にも、タイトルからも分かるように、異国趣味的な要素はあるように思う。ただ、室内楽的に楽器を制限するような、取り澄まされた感性というよりは、19世紀ロマン主義的なスケールも保持していて、結局それが、のちのハリウッドにつながっていくサウンドなのかな、と思わされた。ストコフスキー指揮で、ぐいぐいと聴かせてくる。隠れた名曲と思わせるだけの説得力はある。

ライナーノートによると、この《詩》は、ヴァージルの『エクローグ』第8章が元になっていて、テッサリアの少女が恋人に捨てられ、妖術を使って彼を取り戻そうとする物語だという。楽譜が手元にないので確認できないのだが、トランペットが舞台袖で演奏する設定になっているらしい。ただこのCD音源では中央から、ものすごく遠い位置から聴こえてきる。これは「物語の魔術的な要素を表現」しているのだとか。最後の方は、けっこう大きな音で懸命に吹いているっぽいが、録音で無理に抑えられているように聞こえる。生演奏だと、もうすこし自然に聞こえるのかもしれない。 (2025-02-28)

Ephemera. Pepper Adams Quartet. 

ジャズはシロートで、しかもバリサクのレコードって本当に知らない。このアルバムはCDになってなくて、僕は某所で聴くことができた。以前どこかでお金を出してデジタル化された音源をダウンロードしたこともあったのだが、スクラッチ・ノイズや針づまり?の音で歪んでいて(しかもクリーニングすれば取れたのでは?というレベル)、がっかりした記憶がある(→こちらのブログでも指摘されている)。B1のJitterbug Waltzを、3拍子の曲の例として、かなり前に富山大学の教養の授業で聴かせたことがあった。

2025年2月15日土曜日

アルバム『弦楽四重奏のメロディー』 (アメリカン・アート四重奏団)

String Quartet Melodies. American Art Quartet RCA Victor (Bluerbird Classics) LBC-1086 (Mono, LP)



幸松肇氏の『世界の弦楽四重奏団とそのレコード』第1巻 アメリカ編によれば、アメリカン・アート四重奏団は第二次世界大戦中の、1940年代のSP期からLP期にかけて、「アメリカの黎明期」に結成されたアンサンブルだそうだ。西海岸を中心に活躍した実力派といったところなのか、「西海岸=ハリウッド=メロメロ路線」ということではなく、ヴィルトゥオーゾ的な感覚が一方に、上品なリリシズムが一方にというところか。録音の古さゆえに、低音がもっと欲しいところもあるが、聴きき慣れると何とかなるような気がする。

このアルバムの音源自体は、ソロ演奏家としても活躍した第1ヴァイオリン奏者にちなんだ『アート・オヴ・ユーディス・シャピロ』 (→タワーレコード、 →Spotify) というBiddulphのコレクションに今は収録されている(シャピロについては青弓社のサイトを参照→第14回 ユーディス・シャピロ (Eudice Shapiro、1914-2007、アメリカ))。ただし、オリジナル・アルバムでは、このCDの4トラック目 (メンデルスゾーン:スケルツォ - 弦楽四重奏曲 第4番 ホ短調より)と5トラック目 (チャイコフスキー:《アンダンテ・カンタービレ》) は曲順が入れ替わっている。

2025年2月13日木曜日

マイケル・コルグラス:《コンサート・マスターズ Concertmasters》(秋山和慶指揮アメリカ交響楽団)

Robert Rudié, Red Violin; Masako Yanagita, Yellow Violin; Ronald Oakland, Blue Violin American Symphony Orchestra; Kazuyoshi Akiyama, Conductor. Turnabout TV 34704 (LP)

Spotify

先日秋山和慶さんがご逝去されたということで、あまり知られていない秋山さんの録音として、これを取りだしてみました。

マイケル・コルグラスはイリノイ大学卒業後、ウォーリングフォード・リーガーとダリウス・ミヨーに師事。生前は打楽器奏者・指揮者としても活躍し、しばしばアメリカ国内のアンサンブルにゲスト・アーティストとして出演していました。

3つのソロ・ヴァイオリンのための《コンサート・マスターズ》はデトロイト交響楽団が初演した作品で、このレコードでは、1962年、当時80歳だったレオポルド・ストコフスキーによって創設されたアメリカ交響楽団の3人の首席団員(ロバート・ルディエ、マサコ・ヤナギダ、ロナルド・オークランド)が独奏をつとめています。3人は1977年4月17日のカーネギー・ホールでの、初演に続く2度目の公開演奏でも独奏をしているそうです(オーケストラもこのレコードで演奏をしているアメリカ交響楽団です)。

レコードのライナーノートによると、この曲は「ロマンティックな印象主義的、ポスト・ウェーベルン的な作品」で、「作曲者のヴィヴァルディへの憧れと、セリエル技法への憧れが結びついた結果」「18世紀、ロマン派、印象派、ポスト・ヴェーベルンなど、従来の技法と不協和音の技法」を融合しているのだとか。そして「軽やかで叙情的なムードを生み出し」、様々な音楽様式を統合しているとあります。

ただ個人的には、あまりウェーベルンという感じはしていないように思いました。フレージングはとても古典的ですし(ヴィヴァルディの影響だから、ネオ・バロックということになるのかな?)、アメリカの真面目な無調音楽という感じがしました。

ところで、独奏者については、通常の「第1、第2、第3ヴァイオリン」という用語をコルグラスは意識的に避けており、赤、黄、青という色を用いています。その理由について、作曲者自身の言葉をライナーノートから引用します。

ソリストの名前をどうするかというくすぐったい問題が出てきた。ヴィヴァルディは自分自身と生徒のために書いていたので、I、Il、IlIと指定することができたが、誰が名ヴァイオリニストに2番、いや3番を弾けと言うだろうか?そこで解決策として、ソリストに赤、黄、青(指揮者に近い赤)の名前をつけることにした。これで、好きな色をめぐって論争が起こることだろう!作曲家の苦悩は終わらない。

2025年2月11日火曜日

ボストン・ポップス・ポピュラー・コンサート (フィードラー/ボストン・ポップス)

 『ボストン・ポップス・ポピュラー・コンサート』フィードラー指揮ボストン・ポップス・オーケストラ ドイツ・グラモフォン (ユニバーサル・ミュージック)  UCCG-9358

1970年〜73年の録音。バート・バカックの《雨にぬれても》 (1969年の映画)《サン・ホセへの道》 (1968年、ディヴォンヌ・ワーウィックが歌って大ヒット) の品の良いアレンジ(残念ながら編曲者の名前がCDには明記されてい ないが、元LP (ポリドール・レーベル) のジャケットを見てみたら、どうやらリチャード・ヘイマンらしい)。

内容はムード音楽より、ややハイブロウな感じ。聴いた感じではスタジオ録音ではなく、ボストン・シンフォニー・ホールの豊かな反響も入っているようではある(未確認)。そして音が立っていて、歯切れがよい。ジョン・ウィリアムズ時代にくらべると、やや細身かもしれないけれど。

ラグタイム・ナンバー、フォックストロット、デイキミーランド・ジャズ、録音された頃のヒット・チェーン… もちろん「本物」ではないかもしれないが、 これらをまとめてそれなりに楽しく味わうには良い。

演奏は、なかなかのハイ・テンション。でもフィードラーは 淡々と4拍子で振 ってそうなので、面白い。

クラシックを本業とするミュージシャンがポピュラー・チューンに挑戦しているといえるのだろうが、それがマイナスになっているようには思えない。

【トラック内容】
1. 雨にぬれても
2. 恋よさようなら
3. サン・ホセへの道
4. サウンド・オブ・サイレンス
5. 明日に架ける橋
6. イージー・ウィナーズ
7. シュガー・ケーン・ラグ
8. 12番街のラグ
9. ダークタウン・ストラッターズ・ボール
10. タイガー・ラグ
11. 昼も夜も
12. ミュージカル《ラ・マンチャの男》メドレー (ドゥルシネア / アルドンサ / マンブリーノの金の兜 / 彼のことしか考えず / 哀れな騎士 / いとしのドゥルシネアへ / 見果てぬ夢)
13. ミュージカル《ヘアー》メドレー( アクエリアス / ドナ / フランク・ミルズ / イニシャルス / エイント・ゴット・ノー / ヘアー / バレ・クリシュナ / エアー / グッド・モーニング・スターシャイン / レット・ザ・サンシャイン・イン) (2004.6.14記述、2025-02-11補筆)

2025年2月2日日曜日

ゴードン・ムンマ 電子音楽作品リスニング・メモ (2004.9.16)

Gordon Mumma "Live-Electronic Music" Zadik TZ7074

《ホーンパイプ (角笛) Hornpipe》(1967) ゴードン・ムンマ (狩猟ホルン、ホルン、サイバーソニックス) Track 3
アマゾン

ナイマンの著作によるとムンマのcybersonic devices使用の作品としてはHornpipe (1967) が最も有名なんだそうだ (Nyman, 101)。

例えばこの曲がフィードバックを使用しているということを知らなければ、ホルンや角笛といった太古、原始を思わせる響きと沈黙に思いを馳せながら、想像力を働かせて聴く行為になるのだろう。一方、一度コンソールの中に入り音楽が変化させられると、リード楽器のような音になる。ゾーンのClassical Strategiesを思い出す。明らかにヒスノイズが聞こえてくる箇所はテープなのか?

「演奏場所の中でのホルンの音の反響をモニターし、自らその反響を補足するように調整する。この調整作業の間、ある回路が不均衡になり、自分の均衡を保とうとする。そして、その過程で、さまざまな組み合わせが生じ、それが純粋に電子的な反応を引き起こす。」(ナイマン、195-196)

《Mesa メザ》 (1966)デヴィッド・テュードア(バンドネオン)、ゴードン・ムンマ(サイバーソニックス)Track 2

冒頭からバンドネオンの音など全く思い起こすことのない、歪んだ電子音的な響き。《ホーンパイプ》と違うのは、長い音が引き伸ばされること。サイバーソニックスに、どれだけ「結果としての音」をコントロールする能力があるのか、という疑問を持った。ナイマンの『実験音楽』によるると、単なる増幅装置ではなく、gate-controlled circuit とコンサート・ホールの音響によって左右される (Nyman, 102) というし。ムンマのシステムを知る必要が出てくるだろう。 (2004.9.16執筆)