2024年11月3日日曜日

アメリカのシェーンベルク ~ 創作、交友、教育 (『都響』エッセイ)

 『都響』エッセイ集の一つとして「アメリカのシェーンベルク ~ 創作、交友、教育」という文章を書きました。どうぞよろしくお願いいたします。

https://www.tmso.or.jp/j/archives/special_contents/2024/2024essay/column/column07.php

ランダル・トンプソン指揮の《アレルヤ》(メモ)

 『ランダル・トンプソン・プログラム A Program of Music by Randall Thompson』から。作曲者指揮ハーヴァード大学・グリークラブ、ラドクリフ・コーラル・ソサイエティ Harvard Glee Club – FH-RT モノラル録音LPレコード

出だしは 40前半〜後半BPMなのだが、盛り上がってくると50BPM台に入る (Lento指示らしいけど、冒頭はLargoじゃないのって思うくらい)。録音のせいなのかもしれないけれど、冒頭とクライマックスとの強弱の差も激しく、再生装置の音量設定もなかなか難しいかもしれない。

2024年11月2日土曜日

レジャレン・ヒラー:ピアノ・ソナタ第4番・第5番

Lejaren Hillar, Sonata No. 4 for Piano (1950); Sonata No. 5 for Piano (1961). Frina Arschanska Boldt (No. 4); Kenwyn Boldt (No. 5). Orion ORS 75176.

レジャレン・ヒラー:ピアノ・ソナタ第4番 (1950)、第5番 (1961)。フリーナ・アルシェンスカ・ボルト、ケンウィン・ボルト(ピアノ)

レジャレン・ヒラーというと、どうしても音楽理論にもとづいたアルゴリズムによってコンピュターに作曲させたという弦楽四重奏のための《イリアック組曲》 (1957) のことを思い浮かべてしまう(曲の方は腑抜けするほどAIの作ったクラシックのような感じというべきか…)。しかし、彼自身が自分の意志で書いた曲 (?) はどんなものなのかな、という疑問を持って、このレコードを入手してみた。ヒラーって、プリンストンで化学を専攻しながら、作曲をミルトン・バビットとロジャー・セッションズに師事していたらしい。そうなると、余計に前衛/無調系なのかな、と思いつつ、でも、サイエンス系・技術系の人は、案外保守的な音楽好みなのでは、という先入観も持ってみたり。

作曲家自身による解説文よると、このレコードが発売された時点で、ヒラーは6曲のピアノ・ソナタを作曲していたらしく、収録されている4番と5番のほかには第1番(1946)、第2番(1947)があるという(3番には言及がない)。他にもピアノのための長大な作品があり、そのうち《12音による変奏曲 Twelve-Tone Variations》は別のレーベルに録音されているとのこと。ちょっと調べてみたら、そのレコードはTurnabout TV-S 34536で、YouTubeでも聴くことができる。

 

さてピアノ・ソナタ第4番の作風の特徴としてヒラー自身が説明するところによると、「最後のソナタを除く他のソナタのほとんどとは対照的に、ソナタ第4番はややプログラム的で、唯一ユーモラスな作品である」のだそうだ。確かにソナタ第4番の第2楽章にはスイングの感覚が感じられたり、黒人霊歌っぽい部分があったり、民謡っぽい部分があったり。クラシックは基本としつつ、いつの間にか異質なものが混ぜ込まれているという印象を持った。一方の第1楽章はロマンティックな作風だったりもする。

第5番のソナタは New World から別のピアニストによる演奏がCDでリリースされている。第1楽章は、すべての音程関係(短2・長2、短3・長3、完全4…)を含む音列が使われているそうだが (C, As, D, F, G, H, B, F, Es, E, A, Fis)、12音全てではなく、F音が重複し、Cesは欠けているとのこと。ソナタ形式を踏襲しつつ、再現部では(2つではなく)3つの主題が逆の順番で提示されるとのこと。


第2楽章は鍵盤の上半分の音域を意識的に使って書かれた「静寂に包まれた」音楽(12分半ほど)。第3楽章は調性の枠組みではないものの対照的な主題を提示するという点でロンドなのだそうだ。ソナタを作曲していた時期が《イリアック組曲》と重なっていたため、「チャンス・プロセス」にも強い関心を持っていたというのも興味深い。ただ聴いた限り、偶然性を感ずるところはなく、アクセントの出し方が面白い、スケルツォ的な性格の楽章なのだろうと思われた。

作曲家自身によると第4楽章は「7/8拍子と10/8拍子による素材の対比」であり、しかもジョン・ケージとの共作《HPSCHD》の「2つのチェンバロ・ソロで引用されている」とのことだった。《HPSCHD》は何度かさらっと聴いたはずなのだが、とっさに《HPSCHD》の曲が思い浮かばなかった…。2分もない、あっさりとしたエピローグだった。

個人的には第4ソナタが面白い発見だった。ヒラーが当時の批評として紹介したものをライナーノーツから引用してみると、「ヒラーのソナタは、ベートーヴェンからポップなダンス音楽まで、さまざまなスタイルのごった煮で、無声映画の音楽のように聴こえることが多い」だそうで、初演をしたピアニストのフリーナ・ボールドについて「中間楽章で聴衆の笑いが抑えられなくなったときに若干崩れたものの、献身的な演奏を披露した」とのこと。いま改めて演奏されたとしたら、案外普通に受け入れるんじゃないかと思う。

第5番の方は、《イリアック組曲》《HPSCHD》への言及で興味をそそられた。聴き比べてみる必要があるとは思う。

2024年8月9日金曜日

レオン・ルイス:《クァルテット・アメリカーナ》(1960)

ルストガルテン四重奏団 Bristol Records 番号なし (片面のみのレコード)


とある方から譲り受けたレコード・コレクションの中の1枚。片面のみ溝が刻まれているレコードは初めて所有することになったかもしれません。作曲者はレオン・ルイスとされていますが、このレコードのジャケットは手書きの赤字で、それ以上の情報はありません。


ということで、調べてみました。

レオン・ルイスは1890年3月30日にミズーリ州カンザスシティで生まれ、シカゴに育ちます。幼い頃から音楽の訓練を受け、「ピアノの神童」として奨学金を得てウイーン国立音楽学校に入学。 そこでピアノをテオドル・レシェティツキーに、指揮と作曲をヘルデン・グレーデラーとテルンに師事したという情報を得ました。テルンというと、カーロイ・テルンという作曲家が有名なのですが、年代的にはルイスが生まれる前に亡くなっているので、2人の息子のうちのどちらか、ということになるんでしょうか? パッと調べてみたところ、息子のウィリもルイスもウイーンでピアニストとして活躍したっぽいですが、エルヴィン・シュルホフも師事したというウィリだったのかなあ?

さてルイスは1910年に帰国し、コンサート・ピアニストとしてヨーロッパ、アメリカ、カナダをツアーします。時代柄、サイレント映画の音楽を担当した経験もあったようです。1920年代にはシカゴのラジオ局WBBMで音楽監督を務め、その後、CBSラジオ・ネットワークの交響楽団の指揮者を長年にわたって務めました。作曲活動に専念するようになったのは1945年頃からで、1960年10月5日、ロサンゼルスの娘を訪ねている最中に亡くなったということです。

《クァルテット・アメリカーナ》は1960年の作品。同年にルイスは亡くなっているので、最晩年の作品ということになりますね。レーベルにもある通り3楽章形式です。どのような経緯でこの曲を作ったかについては、正直分かりません。とあるレコードの解説には「自由、進歩、そして人生を満喫することへの関心」を表現しているとありましたが、うーん、それはタイトルがアメリカだからというところから出発して書いた、アメリカの美化のような感じもしなくもない…。

第1楽章の<ニュー・ランチョ・ディアブロ>ですが、これはどうやらカリフォルニア州にある「ランチョ・ディアブロ」というコミュニティの名前のようで、アメリカ西部との関わりがありそうな雰囲気が漂っています。荒野へ向かっての叫びのような楽想から始まり、ワイルドな感覚があります。

第2楽章は<ニューオーリンズ>と題されており、ついディキシーランド・ジャズなどを想像してしまうのですが、あに図らんや、緩徐楽章になっています。あえていえば、黒人霊歌からのインスピレーションがあるということなのかな。

第3楽章は<ニューヨーク>ということで、なにかジャズっぽい音でもあるのかなと思ったのですが、そういうものはなく、モダンで活力のある都市を描いたものなのでしょうか。確かに第1・第2楽章とは明らかに違う感覚はありますね。

ということで、全体として、曲がどれほど「アメリカーナ」なのかは分かっていないのですが、アメリカを形作る地域的な違いを作曲者なりに音で描き分けたという感じの作品なのかもしれません。

2024年8月7日水曜日

ワリングフォード・リーガー:ピアノ三重奏曲 作品1 (1919-20)

ジョン・コヴェッリ(ピアノ)、ウィリアム・クロール(ヴァイオリン)、アレキサンダー・クーゲル (チェロ) Columbia MS 6189
archive.org




リーガーというと、アメリカ音楽史的には、いち早くセリエル技法を取り入れた作曲家として知られていると思うのですが、この作品1は、ロマン派の延長線上にありますね。ちょっと驚きました(リーガーに言わせると「ポスト・ロマン派」らしいのだけれども)。パデレフスキ賞というのも受賞しているらしいです。

ピアノ三重奏曲が作曲されたのは1919年から20年にかけてでしたが、初演は10年後の1930年で、場所はニューヨークのボヘミアンズというところでした。このボヘミアンズというのは「ニューヨーク・ミュージシャンズ・クラブ」とも呼ばれており、ニューヨークの著名な音楽家と音楽愛好家からなる組織だそうです。そして会員のためのディナーや室内楽コンサートを企画し、若いアーティストを支援し、著名な音楽家を顕彰しているとのこと。

僕が驚いたのは、リーガーがこんな曲を書いていたのか(考えてみればそんなに驚くべきことじゃないのかもしれないけど…最初の作品からバリバリ無調というのも時代的背景からして不自然なんだろうし)というだけでなく、作品自体がとても魅力的だということです。「書く力」がある人だったのですね。

なおYouTubeにも音源がアップロードされていましたが、残念ながら左右が逆になっています。ヴァイオリンが右から、チェロが左から聞こえてきます。

2024年5月18日土曜日

《山の音楽家》の原曲?→ Sing Hallelujah, Praise the Lord! (Swertner/Bechler)

Wikipediaで《山の音楽家》を調べると、おそらく歌詞の内容からドイツ民謡のIch bin ein Musikante が原曲であると書かれている。ただ、そこから原曲とされているYouTube動画を見ると、旋律は全く違っていてむずむずしたりする。歌詞にしても、小鳥・うさぎ・小リスなどの動物が登場しないのである。

ところがアメリカの音楽史を調べていて、Sing Hallelujah, Praise the Lord! というモラヴィア派の賛美歌に出会った(チューンネームはBECHLAR。19世紀、John Christian Bechlerという人が作曲したことに由来する)。そしてこの賛美歌旋律が、《山の音楽家》の歌いだしと全く同一なのである。AABA形式で、Bの部分は《山の音楽家》とは全く違うのだが、A部分については、Ich bin ein Musikante どころではない一致だ。


この旋律と《山の音楽家》に何か関係があるのか、あるいはこの賛美歌が、そもそも何か音楽家を扱った民謡を参照しているのか、現在の自分には突き止められていないのだが、とりあえずモヤモヤするので、投稿しておきたい。

2024年4月25日木曜日

ディズニー・マジカル・ワールド (エリック・カンゼル指揮シンシナティー・ポップス)

意外といいんですよ、このアルバム。もちろんオリジナルじゃなくて、カヴァーになると思うんですけど、「ディズニー・オン・クラシック」が好きな方だったら、これも楽しんでいただけるんじゃないかと。ステージ感満載ですし、録音もよいですし、アレンジも素敵かなと。

メンケンが担当した3作品とエルトン・ジョンの『ライオン・キング』ということで、「ディズニー・ルネサンス」の最盛期の名曲揃いですから安心ですね。

『ライオン・キング』の《サークル・オブ・ライフ》は、レボMの「ガツーン」というヴォーカルじゃないし、歌は斉唱で始まるので、「えっ」と思われるかもしれません。でもオープニングはハンス・ジマーのスコアでLKの世界に浸れるんですよね。歌本体もサビまでくれば、これもありかも!と思えるんです。


収録内容
1 『ライオン・キング』組曲 《サークル・オブ・ライフ》
2 『ライオン・キング』組曲 《王様になるのが待ちきれない》
3 『ライオン・キング』組曲 《ハクナ・マタタ》
4 『ライオン・キング』組曲 《準備をしておけ》
5 『ライオン・キング』組曲 《愛を感じて》
6 『ライオン・キング』組曲 《キング・オブ・プライド・ロック》
7 『アラジン』組曲 《アラビアン・ナイト》
8 『アラジン』組曲 《ひと足お先に》
9 『アラジン』組曲 《フレンド・ライク・ミー》
10 『アラジン』組曲 《ホール・ニュー・ワールド》
11 『アラジン』組曲 《アリ王子のお通り》
12 『リトル・マーメイド』組曲 イントロダクション
13 『リトル・マーメイド』組曲 《パート・オブ・ユア・ワールド》
14 『リトル・マーメイド』組曲 《アンダー・ザ・シー》
15 『リトル・マーメイド』組曲 《哀れな人々》
16 『リトル・マーメイド』組曲 《レ・ポワソン》
17 『リトル・マーメイド』組曲 《キス・ザ・ガール》
18 『リトル・マーメイド』組曲 《ハッピー・エンド》
19 『美女と野獣」組曲 プロローグ
20 『美女と野獣」組曲 《ベル》
21 『美女と野獣」組曲 《ひとりぼっちの晩餐会》
22 『美女と野獣」組曲 《ガストン》
23 『美女と野獣」組曲 《美女と野獣》