2012年11月16日金曜日

図書館の利便性についての疑問

神奈川県立図書館の貸出・閲覧をやめるという話が神奈川県から出ているというのは、由々しき事態という気がいたします。教育委員会が積極的に県民の教育環境を悪化させることを提案するというのは、ちょっと考えられない感じがいたしますが、本当なのでしょうか。仮に本当だとして、それに対して強い反対が県民から出ないということであれば、それはこの県だけでなく、日本全体で図書館に対する意識が低いということの象徴なのかもしれません。自治体の財政を問題にするにしても、社会教育に関していえば、ここは最後の砦ではないかとも思ったりします。

少なくとも私が留学していたアメリカで、図書館を使えなくするなんていうことになると、大変な反対運動が起きるような気がします。図書館を使ったプロジェクト(まあ、宿題と言ってもいいですが)は、小学校の頃からやっていますし、アメリカは本が高いということもあり、かなりの人が図書館を使っています。

横浜には市立図書館もありますが、県立図書館の場合は単に「貸本」をするというだけでなく、アカデミズム(例えば大学)に属していない人々にとって「研究調査」の拠点でもあり得ます。ここが県立図書館の大きな特徴でしょう。

実は私自身、大学に属していない時期が10年ほどありまして、その時、富山の西洋音楽史の研究を行ったのですが、富山県立図書館の蔵書を自由に使えなかったら、何もできなかったと思います。市立はやはり「貸本」のイメージが強く、あるいは神奈川県の方々の大半が考えている図書館のイメージも、レンタル本屋さんのイメージしかないのかもしれませんが(とは思いたくないですが)、そこはちょっと考えていただけないかと思うのであります。

県立図書館サービス廃止で知事「県内全体の利便性高まる」と強調
神奈川カナロコ 2012年11月15日
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1211140016/
 県立図書館2館の閲覧・貸し出しサービスの廃止を県教育委員会が打ち出したことについて、黒岩祐治知事は14日の会見で「市町村立図書館で(県立図書館の蔵書の)閲覧と貸し出しができれば、県内全体の利便性が高まる」と強調、市町村側の合意が得られれば、県民が直接利用する機能を廃止する意向を示した。 知事は県教委の方針を支持した上で、「県立図書館の閲覧、貸し出しはすごく少ない。そのためだけに人をたくさん配置している」と指摘。川崎図書館(川崎市川崎区)は移転の必要性があるとし、県立図書館(横浜市西区)の存廃は「相談しながら検討していく」と述べた。

ということで、まさに知事の口から神奈川県立図書館の貸出・閲覧をやめるという話が出ており、ちょっとびっくりしています。

たとえば横浜市立図書館において県立図書館の蔵書を借り出せるというのは、今でもやっていることです。ですから「利便性」に関しては、現状でもそんなに悪いとは思いません。つまり神奈川県立図書館という直接の貸出拠点が一つなくなるということで、それは確実にマイナスになると考えます。

音楽の面から心配なのは、視聴覚資料、つまりLPレコード、CD、ビデオの扱いです。県立図書館では視聴覚資料の貸出を行っており、クラシックや日本の伝統音楽など、かなりのものが揃っており、これは広く県外にも自慢できる内容です。一方、横浜市立図書館は、視聴覚資料は館内使用で、貸出は行っておりません。

視聴覚資料を貸し出して家で聴けるメリットは大きいです。県立図書館の視聴覚資料室には視聴用のブースもありますが、長時間の作品を聴くのは非常に大変です。実は県立図書館の視聴覚資料のコレクションの目玉には、ワーグナーのコレクションがあります。ワーグナーの楽劇というのは3時間・4時間が当たり前の作品が多く、こういった長時間の作品は、忙しい人にとっては、やはり家でじっくり、あいた時間に聴けるのはありがたく、聴く度に図書館に行くというのは、「利便性」の上では大きなマイナスになります。視聴覚資料3週間6点というのは、かなりありがたいですね。ちなみに富山市立図書館は視聴覚資料を貸し出してはいますが、2週間3点までです。

視聴覚資料についても、おそらく「閲覧廃止」ということですので、それが実現すると、県立図書館にある視聴覚資料は、例えば横浜市立図書館図書館のブースで聴くということになるのでしょう。たしかにブースは身近になるかもしれませんが、不便であるには違いないです。横浜市立図書館の、視聴覚資料の貸出をしないポリシーは、今のところ変わらないでしょうから、横浜市民は、県立図書館の本は借りられても、レコード、CD、ビデオは借りられないということになりそうです。ということになると、やはり「利便性」は格段に悪くなりそうです。

さて、県立図書館の資料というと、調査対象によっては書庫ばかりを頼ることになります。そういった書庫の資料にしても、現地のカウンターで次々に出してもらわないと、例えば神奈川の地元の文化や音楽に関するリサーチはものすごく困難になりそうです。そういった貴重資料、郷土史系の資料を、例えば横浜市立から借りることができたとしても、ものすごく手間がかかりますし、その場で見比べて何か他のを請求というのも、とても難しくなります。やはり「利便性」は落ちそうです。

以上、こと「利便性」ということを軸に県立図書館の貸出・閲覧中止を考えますと、私にとっては、あまり良いことが思い浮かばないのが本当のところです。

0 件のコメント: