映画『ベン・ハー 』(1959、音楽=Miklós Rózsa) を観た。デジタル・リストアされたBlu-rayでとにかくきれい。
パックス・ロマーナというよりはパックス・アメリカーナを感じる…そういう時代の産物というべきか。タイトルの『ベン・ハー』って何かと思ったら、ユダ・ベン=ハーっていう名前のファミリー・ネームなんですね。そう考えると、ユダヤ世界ど真ん中ですね…。確かに長いのだけれども、長いという感覚をそれほど感じなかった。しかし、冒頭で、この映画を「イエスの物語」としているのだけれども、それはどうかなあ。生前のイエスに「出会っていた」という感じかなあ。
物語的にちょっと気になったのは、メッサラがどうしてそこまでベン・ハーを忌み嫌うのかについての動機づけが難しいなあという感じだろうか。あとは、ポンテオ・ピラトの名前が出てくる辺りから、結末はある程度予測できてしまうというところで、あの終結部に関しては「まあ、そうだよね」になってしまうということかもしれない。ただ、それを分かってでも、いかにそれを描くかという点では成功しているのだろうな、という気持ちは持てたかもしれない。聖書物語に親しんでいない人から見ると、やはり戦車競走がクライマックスで、あとは「オマケ」になるのだろうか。インターネットのコメントを見ていると、ところが案外エンディングにも感動している人がいるっぽいので、やはり execution が良かったということなんだろうな。
しかしチャールトン・ヘストンが、聖書のメッセージとはいえ「敵を愛せ」というメッセージに共感を寄せているというのは、なかなかだ。
ミリアムとティルザの「死病」(Wikipedia表記) の扱い方は、なかなか難しいところで、聖書の新共同訳の記述も随時変更をされているところだけれども、ビジュアルにすることで、そのシリアスさが伝わってくるというところか。
ロージャ・ミクローシュ (ミクロス・ローザ) 、長尺の映画に作曲するのは、さぞかし大変だったろうなあ。作曲にかかった時間も、そうとう長かったらしい(あとで調べてみなければ)。モーダルな旋律が、やっぱり歴史感を醸し出すには良いのだろうな。短7度上行→短3度下行→ターンの組み合わせって、ものすごくインパクトがあるので、ベン・ハー登場の度に、その旋律を出すところは、やはり音楽から映画を統一させるというところで、うまくいっているように思う。音楽的にも戦車競走の場面が有名だけれど、実際の競争が始まるや否や、音楽がすべて止まって、効果音だけになるという選択は素晴らしいと思う。あの場面、20分だっていうのだけれど(本当?)、ずっと短く感じられた。まあ、スペクタクルな映像という意味でも、圧巻ではある。チャールトン・ヘストンも、かなり練習したらしいし(『十戒』では2頭の馬だったそうだが、これは4頭だからなあ)。