2005年6月13日月曜日

A Portrait of George Szell

The Cleveland Orchestra: One Man's Triumph (a production of Henry Jaffe Enterprises for the Bell system). Kultur(VHSビデオテープ)

1966年に『ベル・テレフォン・アワー』にて放送されたジョージ・セルのドキュメンタリー番組。ブラームスの《大学祝典序曲》のリハーサル風景では、セルが聴きたい箇所を絞って選び、演奏する。楽団員への指示にしても、歌って聞かせるのではなく言葉を使って説明調に進める。吉田秀和氏が『世界の指揮者』で書いていたのと同じような情景だ。そしてラフェエル・ドルーリアンとセルによるアルバン・ベルクの練習風景が続く。セルはもともとピアニストとしてキャリアを始めたと知っていても、ベルクのヴァイオリン協奏曲の伴奏パートを自ら弾いてリハーサルを行うというのは大した才能である。

次にルイス・レーンとセルの対話。今度レーンがメンデルスゾーンの第1交響曲を録音するということでセルに相談だという。彼はメンデルスゾーンの作曲プロセスに触れ、3楽章に2つのバージョンがあり、録音ではメヌエットとスケルツォのどっちを選んで演奏すべきかをセルに尋ねる。セルはルイス・レーンという名前がレコードのラベルに載るのだから、最終的決断は自分で行うべきだと言い、それぞれの特色について簡単に述べるだけにとどめていた(他楽章との調関係など)。しかし楽譜の選択について考える時、単に楽譜だけでなくて、作曲家の伝記的な状況も考えるというのは、音楽学者ならともかく演奏家もやるのだということに改めて気が付いた。

続いてジェームズ・レヴァイン(若いっ!)、スティーヴン・フォーマン、マイケル・チェリーの3人の指揮レッスンの様子。まずは一人一人ではなく、3人に語りかける。スコア・リーディングやスコア・プレイングの話。コダーイによるシステムだそうだが、まずバッハのインヴェンション、次にコラール、そして弦楽四重奏にトライせよという指示をしている。作品を知るために、こういう学習は不可欠だという。この後レヴァインから、ピアノ相手の指揮レッスンが始まる。

《ドン・ファン》の冒頭
・アウフタクトはできるだけ小さく振る
・音楽家は曲を実際に演奏し始める前に、心の中で音楽を感じていなければいけない。

ベートーヴェン5番の冒頭
・フェルマータの切り方が大切。次のモーションとの関係でどうやって切るかを考える。

最後はベートーヴェンの第5交響曲のリハと本番。アナウンスが「封建主義」は「独裁政治」ではないというコメント。セルに対してはしかし後者のように感ずる人も少なくなかったと聞くが、実際はどうだったのだろう。リハ風景を見る限り、彼は団員を叱りつける訳ではない。しかし、ずっと一人で振りっぱなし、話しっぱなしという印象を覚えた。まあそのこと自体はセルだけということではないし、おそらく彼のリハのやり方、話す内容(楽譜をコピーして覚えているような、知的な印象)、ニュアンスといった、別の要素が彼の印象につながっているのだろう。

1 件のコメント:

谷口昭弘 TANIGUCHI, Akihiro さんのコメント...

 谷口先生,こんにちは。
セルは大好きな指揮者ですが,指揮ぶりを目にしたことはないのです。
セルのドキュメンタリー番組,興味があります。これは市販されているものでしょうか。

それにしても,ジュリーニ,亡くなりましたね。本当に残念です。
彼はロス・フィルの常任だったこともありますが,アメリカ音楽は指揮したことはあるんでしょうか。
謹厳なジュリーニとアメリカ音楽というのは私の中では結びつかないのですが・・・。
ただ,こういうステレオ・タイプの見方,聴き方,良くないですね。

投稿者 もんちっち : 2005年6月16日 07:32

もんちっちさん、いらっしゃいませ。

私が観たビデオはKulturというアメリカの会社から出ていたのですが、ホームページで検索してもでてきません。現在はVideo Artists International というところから出ています。

これ以外では、やはりVAIから、シカゴ交響楽団を指揮した映像がリリースされています。ライナー、モントゥー、ストコフスキーなんかもあるみたいで、DVDでも入手できるようです(リージョン未確認)。

ジュリーニのアメリカ物ですが、ディスコグラフィーを見ると、どうやらパーシケッティがあるようです。

他の曲を振っていた可能性も否定できませんよね。

ちなみに私がボストンに住んでいたころ、小澤さんがジョン・ブラウニングとバーバーのピアノ協奏曲を演奏しました。私はそのコンサートには行けなかったのですが、エアチェックしたカセットはどこかにあるはずです。

まあアメリカはエンターテイメント王国でありますから、もんちっちさんのおっしゃることも分かります。その一方で、なんといいますか、生真面目で理屈っぽい側面もあるんで、ミルトン・バビットのような人が重宝されるんでしょうね。

投稿者 谷口 : 2005年6月16日 10:13

 谷口先生,おはようございます。

いろいろ有益な情報をご提供いただき,ありがたく思います。セルとシカゴですか。何という刺激的な組合せでしょう。

ジュリーニですが,ディスコグラフィーを見ると,結構いろんな曲が出ているんですね。どちらかというと,再録は多いけれどレパートリーの狭いマエストロ,という印象があったのですが。
なるほど,アメリカ音楽を振っていたとしても不思議じゃないですね。

ボストンで小澤さん,ですか。羨ましい。
後半はサイトウキネンとの活躍が喧伝されるばかりで,ボストン響との録音が少なかったのが惜しまれます。

先日,先生のHPに刺激され,久しぶりにバースタインのロイ・ハリス&ウィリアム・シューマンのディスクを聴き直しました。やっぱり,素晴らしい。

これからも宜しくお願いいたします。