2007年9月25日火曜日

ラトルのハイドンをかじり聴き

ハイドン 交響曲第88番ト長調《V字》サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (EMI国内盤) 

ああ、「ピリオド派」によって確立されたoral traditionは、間違いなくモダン・オケにも浸透し、当然のように演奏されるようになったのだなあ。それに加え、「え、これスコアにあったっけ?」という箇所が多く、後で確かめたくなった。コントラバスの音が膨らんでくるところは、やっぱりモダンっぽさが残っているのだろうけれど、宮廷の楽隊出身のオーケストラという位置づけがよく分かる演奏だと思った。 

それにしても、ラトルも20年前だったら、こんな風にハイドンを演奏するなんてことを、思いついただろうか?

とても面白いハイドン集。

ところで、ピリオド派の台頭っていうのは、こういうメジャー・オケには脅威だったんじゃないかと思うことがある。だって、おそらくピリオド派の演奏の方が作曲家のイメージに近いのだとすれば、それまでモダン・オーケストラの雄が流布してきたoral traditionの「権威」 (というのがもしもあるとすれば) が薄れてしまったんではないかと思えてしまうからだ。 

失われたoral traditionは帰ってこないとは思うけれど、ある程度科学的な推測ができたということなんだろう。そして、それには従わざるを得ないというか。「作曲家が思い描いていたイメージにより近い演奏を」というのが演奏者たちの目的であるならば、そこに、ピリオド派台頭以前にはなかった力関係が働くように思えてしまう。

2007年9月23日日曜日

最近聴いた音楽と読んだ本の記録

Carl Maria Von Weber, Symphony No. 2 in C Major, J. 51. Queensland Orchestra; John Georgiadis, conductor. <録音:20-23 February 1994. Brisbane> (Naxos 8.550928 [Naxos Music Library]) 

いやあ、こういうのを聴くと、ベートーヴェンがいかにぶっとんでたかってのが実感できますよねえ。

Hummel, Piano Sonata in F# Minor, Op. 81. Hae Won Chang, piano (Naxos 8.553296, [Naxos Music Library]) 

William Schuman, Undertow, Ballet Theatre Orchestra; Joseph Levine, conductor (EMI Classics) 

New WorldのLPのライナーの方が作品について詳しく書いてあるのは仕方がないことか。 Doubling in Brass, Morton Gould and His Symphonic Band (RCA LSC-2308, LP) スーザのマーチ、アメリカ愛国歌のグールド編曲、そしてグールドの吹奏楽オリジナル作品2曲という構成。似たようなアルバムに 現在Hybrid SACDで出ている"Brass & Percussion" があり、これとは3曲重なっている。 "Doubling in Brass" のような企画は、モートン・グールドの人気が高かったから通ったんだろうと思う。ちなみにオリジナル作品は、最新作として《セント・ローレンス組曲》、そしてスタンダードになった1曲として《ジェリコ》。黒人霊歌も引用した後者は名演だと思う。特にラッパの音からジェリコの崩落の部分は、Living Stereoらしく豪快な音が入ってて圧巻。でもやや低音不足かもしれない。これってRIAAカーブじゃないんだっけ?

Karol Szymanowski, Works for Violin and Piano (Complete). Nicolas Dautricourt, violin; Laurent Wagschal, piano (Saphir http://ml.naxos.jp/?a=LVC1035)

"Soultrane," John Coltrane with Red Garland. (東芝EMI [Prestige] LP) 

Barbara L. Tischler, An American Music: The Search for an American Musical Identity (Oxford UP, 1986). 

ちらっと眺めたところ、何か具体的に音楽的な要素を挙げて、何がアメリカ音楽らしさを作っているのか、というような話にはなってないようだ。そうではなくて、作曲家や音楽家の意識、オーケストラのレパートリー選択などの中に見出せるナショナリズム的な動きを歴史的文脈から眺める内容ではないかと思う。いろんな言説が引いてあって楽しく読める。 おそらく学際的な内容といえるのだろうし、音楽以外の分野を含めた広い歴史からどういうものが見えて来るのかを考えるのには面白いかもしれない。反対に、音楽的なアメリカニズムの創出といったことを考えるためには、また別のものを読まねばならないのではないかと思う。 第1次大戦中のニューヨーク・フィルやボストン響におけるドイツ音楽ならびにドイツ系音楽家の扱われ方などは興味深い。 とりあえず、いろんな疑問が湧いてくるので、良い本なんだろう。Carol Ojaの本とかも、こういうのがあったから出来たのかな、なんて思ってみたり。 

Wilfrid Mellers, Music in a New Found Land (Faber and Faber, 1964) 

こちらもちらっと眺めただけ。そして、ちょっと手強い印象がある。ヨーロッパにはないものが意識的に見えるという強みはありそうだ。あと、いわゆる「名曲」を羅列しているのではなくて、独自の選択眼で作品を選び、テーゼをサポートさせているのは、やはり評価すべきだと思う。 でも、コープランドのピアノ変奏曲の開始が曖昧な3度、黒人ブルースの6度と7度、シナゴーグのユダヤ音楽の跳躍で始まる…う~ん、そういうのって、私は言いにくいなあ。